辨 |
カタクリ属 Erythronium(猪牙花 zhūyáhuā 屬)には、北半球の温帯に約20-25種がある。
E. americanum 北アメリカ東部産、黄花
E. dens-canis ヨーロッパ北西部産
E. grandiflorum 北アメリカ産、黄花
カタクリ E. japonicum(猪牙花)
シロバナカタクリ f. leucanthum
E. montanum 北アメリカ産、白花
E. sibiricum(新疆猪牙花・鷄腿參) 中央アジア・シベリア産
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ユリ科 Liliaceae(百合 băihé 科)については、ユリ科を見よ。 |
訓 |
和名「かたくり」は、「かたこ・かたこゆり」の転訛という。したがって「片栗」と書くのは当て字。
また「かたこ」は、一説に固粉(根から取る澱粉が固まることから)の意、一説に古名「かたかご(堅香子『万葉集』)」の転訛。 |
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)山慈姑の項に、車前葉山慈姑は「和名ハツユリ カタカコ万葉集 猪舌(ヰノシタ)万葉抄 香子(カコ)同上 カゞユリ江戸 ブンダイユリ カタバナ佐州 カタクリ南部 ゴンベイル日光 ゴンベイロウ同上 カタクリ カタコ カタユリ」と。 |
説 |
北海道・本州・四国・九州・朝鮮・吉林・樺太・南千島に分布。 埼玉では、絶滅危惧Ⅱ類(VU)。
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「カタクリは低地では北に面した斜面の落葉樹林下に見られるのが普通で、しかも土壌湿度に恵まれた場所が適地である。春の初めに美しい花をつけるが、林の新緑が濃くなるころにはもう地上の姿は見られない。季節的なすみ分けとしてはっきりした例である。」(沼田真・岩瀬徹『図説 日本の植生』1975) |
誌 |
嫩葉を蔬菜とし、鱗茎をそのまま食用にする。
また、鱗茎から澱粉を採り、古来片栗粉(かたくりこ)と称して薬用・食用とする。ただし今日の販売品の片栗粉はジャガイモ(近年ではトウモロコシ)の澱粉。
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『万葉集』巻19/4143 に、大友家持(717-785)「堅香子草の花を攀じ折る歌一首」が載る。
物部(もののふ)の八十(やそ)をとめ等が挹(く)み乱(まが)ふ寺井のうへの堅香子の花
(「もののふの」は、八十にかかる枕詞)
鎌倉時代の万葉学者仙覚(1203-af.1272)以来、この堅香子を「かたかご」と読み、カタクリを指すものとする。 |
『花壇地錦抄』(1695)巻四・五「草花 春之部」に、「初ゆり 初中。花紫にてひめゆりほとあり。下へむきて花さく。葉ハ行者にんにくといふ草のごとく、花一りんづゝ茎立て咲ク。高サ四五寸。ぶんたいゆりともいふ也」と。 |
小野蘭山『本草綱目啓蒙』(1806)に山慈姑の項に、カタクリは「東北ノ地方ニ産スル処ノ者、苗根 最肥大ナリ。土人 其根葉ヲトリ、烹熟シテ食フ。又根ヲ用テ、葛粉ヲ造ル法ノ如ク製シテ粉ヲ取。甚潔白ニシテ葛粉ノ如シ。餅トシテ食フ。カタコモチト呼。奥州南部及和州宇陀ヨリ此粉ヲ貢献ス。カタクリト云」と。 |